2017年12月28日木曜日
サントのメリークリスマスのつづき
サント・マンジのくだらない用事に翻弄されるリトサマビッチェルちゃん。
彼女の奮戦記は続く。
前の話はこちら(๑'ᴗ'๑)r[サントのメリークリスマス]
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「あ……シャ○○ウさんッ!?」
私の視界の端で友人SYが斃された。ばふりと雪を舞わせたのはピークのひと殴り。巨大な獣はただ腕を振り回しただけで、私と戦友に今生の別れを齎したのだった。
ピーク出没の予兆。
その報を捕まえた私は、糞サント・マンジからの厄介事あれそれを頭の中からぴしゃりと追い出した。
適当な木の陰に馬車を停め、該当ポイントへ向かって全力で走り始める。
一応は少しだけある私の胸。駆けると小ぶりな乳房だろうと弾むのだ。そして胸部にささやかな圧力がぷりぷりと掛かる都度、感情の高鳴りを感じてくる。
いつもは思いもしないほどのとっても野蛮な方向へと、私の頭の中にあるスイッチ達が次々と切り替っていく。
討伐への参加。
生産を主な業務とするうちの会社ではあまり推奨されないこと。
でも、二日前に死んだジャイアント職のあいつの為にも、私はどうしても仇討ちを成し遂げたかった。
おっと。
火縄銃が無ければ話にならない。
私はほど近いハイデルに寄り、大急ぎで装備を整えてからまた飛ぶ様に走った。
出現予測地点に到着すると、私の他にも多くの冒険者達が既に集っていた。みんな其々に力の入った表情をしている。
私も騎馬隊のみんなと一緒に気合を入れる。最近うちの会社で飼うことになった変種の犬達だ。これから危険な討伐なのだからハイデルの借家に置いてこようとしたのだが、言うことを聞かずついてきてしまった。
「珍しいな。お前さんが討伐に参加してくるのは」
ピークの出現を今や遅しと待ち侘びる私に声を掛けてきたのは、見た目は六十代だが四十代の友人だった。
「シャ○○ウさん……」
彼とはヴァナ・ディールに居た頃からの仲間だ。大航海時代も共に大洋を駆け巡ったし、レジスタンスや地球防衛軍の一員として宇宙人達と戦ったあの絶望的なディストピアの中でも一緒だった。私にとって間違いなく戦友と呼べる一人だ。
「さかなクン、て言うと呼び捨てになるらしいが、俺も今呼び捨てで呼ばれたってことかな?」
「なら、シャ○○ウさんさんがいい? 私その内略してさんさんって呼ぶ気がする」
「名前残ってないな……」
私達はいつもどおりの無益な会話から挨拶を交わした。友人同士で利益を奪い合っていない期間であることを確認するための合言葉みたいなものだ。
「まだ、あいつの仇なんて考えてるのか」
「まだって、たったの二日前のことだもん」
ハイデルで休暇を過ごしていたはずのあいつが、どういう経緯で前回のピーク討伐に参加したのかは知らない。私が知らされたのは、実に簡素なあいつの死亡報告だけだった。
討伐作戦の後半で白獣ピークの大口に喰われた。あいつだったものは何一つ残らなかった。それだけ。
……可哀想に。
ベリア支社のインスタ映え狂いさんのお陰であいつの遺影だけは山の様にあるけれど、遺体無しってどうやってお葬式をあげてやればいいんだろう。
さっき寄ってきたハイデルの借家には、あいつへの勲等にと贈られたピークの角が置かれていた。誰も居ない部屋でひっそりと暗く沈むそれは、私に死の向こう側を感じさせて。
ザァーっと、一陣の風が私の頬を撫でていった。
「きたぞ」
戦友から短く発せられた警告とともに、辺りの気温が急低下してく。
空の光が明滅した。
湧出。
集う冒険者達のど真ん中へ、巨大な白獣が別次元から滲み出る様に出現してくる。
この世ならざる光景。
辺りの温度は、身動き一つで身体がひび割れそうなほどに冷たくなっていく。
凍りついていく。
お構いなしに冷たくなり続ける極寒を不安に感じ始めたその時。
ドスーンドスーン。
大地を揺るがす着地音。
巨大怪獣。
やがて完全に全ての姿を現出させたそれを見て、私は少々気後れした。
す、凄く大きい。こんなにおっきいの、見るの初めて。
「さてやるか。ビッチェルくれぐれも……無茶だけはするなよ」
そうできればいいんだけど。
私はそう返事しようと振り返った。しかし、その位置に何故か彼は居なかった。
視界の端で舞い散ったのは……白い雪と、赤い何か。
「あ……シャ○○ウさんッ!?」
彼の体は幾つものパーツとなって私の犬達に、彼の頭は遠くの蜂の巣の木にぶつかって転がった。
「う、うわああああああ!!」
こんなに呆気なく、こんなに普通の事柄みたいに、これまで苦楽を共にしてきた戦友との突然すぎる別れがやってきてしまった。
白獣。
私の絶叫に白い巨大な獣、ピークはしかし僅かにも動じた様子が無い。
呆気にとられる他の冒険者達を遥か上から睥睨していく怪異は、その内の誰か一人に狙いを定めた。
そして無造作に、唐突に、おもむろに、巨大な拳をまた振り下ろした。
再び白い雪が吹き飛ばされていく光景と衝撃。爆音。
その誰かだった冒険者が、真っ赤に舞い散る肉片の群れと化した。
「ブロント!! くっそ。おい何ぼーっとしてんだお前らッ。やるぞ!!」
他の誰かが叫んだ。
呼応する幾つかの雄叫び。
鳴らされ始めた火縄銃の轟音。
轟音の群れ。
私も火縄銃を構え直した。友の戦死を悲しむのは後だ。この局面を凌がねば、もう笑ったり泣いたり出来なくなるのだから。
戦闘は苛烈を極めた。絶望そのものといっても足りないほどの阿鼻叫喚地獄が広がっていく。
「ひぃっ、ひぃあぁああぴぎゅラッちゅーあ、ぢゅゅゅ」
また誰か死んだ。いや、半分だけ潰されてるけどまだ生きてるか。即死できたほうが良かったろうに。
「わ、わぁぁあああ!! や、やめ、あ、やめやめびゅふっふォンッ」
また誰か死んだ。ゆっくりと踏み潰されていったその誰かとあろうことか目が合ってしまった。トラウマになるかも知れない。
「わ、へぁぅ、あひぁブゥッ」
また誰か死んだ。
「あくそこっちきやがっい、いやぁぁぎょちょヂュンッ」
また誰か。
血の泥雪と凄まじいプレッシャーを撒き散らしながら、ピークは次から次へと何人もの冒険者生活を終了させていった。
火縄銃が効いているのかいないのか、疑問に囚われ始めた私のすぐ右隣りに突如地響きが発生した。
ズドォォオオオォンッ!!
遅れて届いた激しい衝撃。
耳を劈く大音響によろめいて。
青ざめる。
白獣が私を見下ろしている。
今のはいい加減に振り下ろした足が、たまたま外れただけだ。
偶然で命を取り留めた私。
だけど、次の瞬間にはもう……!
「ギャンギャンギャン」
犬達が喚く。
しかしそんな小さく健気なオブジェクト達は、ピークに見えないんだろう。
巨大な顔が私と視線を合わせたまま、その大木かの如き腕を降りかぶっていく。
右か、左か。
どちらから降り下ろされてくるのか? いまいち判然としないフォームだ。
「休みたい時はよう、休めばいんだよ」
やめろ。
「遊ぶ金を貯める為に働くもんだろう」
やめろ。
「嬢ちゃんはさぁ、働くために働いてる様に……俺にはみえちまうんだよなぁ」
やめろよ。
今、走馬燈を見せるのはやめろよ! シャレになってないし前が見えない!
ズドォ━━━━━━ン!!!!
一際大きく鳴り響いたのは、私が四散する音……。ではないみたいだ。それを自分で聴けるはずがない。
ピークの後頭部をしたたか撃ち据えたのは、冒険者達から放たれた火縄銃、その弾丸の一つ。
巨大な拳は振り下ろされる直前で中止された。
うっとうしげに白獣は頭を掻きながら振り返った。
そしてそのまま、今までと同じ様に他の冒険者達を追い回し始めた。
私は遠くのほうの安全圏ギリギリラインに立つ、命を救ってくれた一発を撃った人物に目を凝らした。
なんてことだ。こっちを見てる。俺が助けてやったんだぞぉ~フヒヒヒっていう表情をしてる。完全に悪だくみの真っ只中なお顔で私を見てる。
同僚だ。
ベリア支社を預かる立場だったあやつは、何をどう巧くやったのかあの地域でエリアン教の神主職も任されていた。
けれど既婚の身でありながら酒場娘とも肉体関係をもってしまい、それがバレノス自治区の行政府の耳に入る前にと、社命で今はハイデル北部採石場にある畑で農作業をさせられている。その畑は此処の近くにあって、うちのボスが固定資産税の節約のために私的な別荘を潰して農地にしたものなのだけれど。
そんなことよりも。
あの卑しい左遷男が命の恩人に……。
これは暫く厄介なことになりそうだ。
昼間は神主として真面目な顔で信者の人達と接しつつ、夜になればパトリジオという名の怪しげな闇商人と密談を重ねている様な奴だった。
金儲けしか考えてない奴に大恩を売られてしまった私は、今後どんな目に遭わされるのやら。
しかし、それも感謝せねばならないか。何しろ今の瞬間以降、私はもう二度とどんな目にも遭えない処へ逝くはずだったのだから。
その後何人かの戦死者を出しつつも、ピークは見事討伐された。
金の亡者の畑係は大奮戦。
「フッヒヒヒ。今度連絡しますねビッチェルさん」
と私に下卑た濁声で囁いてから、新しい愛人なのか綺麗な女性を二人伴って畑の方向へと戻っていった。
やれやれだ。
ともあれ、生きていられて良かったと心から思う。
普段、駆除の任務があったとしても、自分よりだいぶ弱い害獣しか相手にしてこなかったのだから。
こんな気持ちの底からの心地いい達成感と安堵感なんて、本当に久しぶりかも知れない。
あまり活躍できた気がしなかった自分。けれどドロップ品は獲得できた。
記憶の黒魔力水晶。
グリードピークの角飾り。
ライブリーピークの角飾り。
防具のブラックストーン四つ。
清雅な森の息吹。
ハンターの印章六つ。
百万シルバー相当の金塊が二つ。
現金が九万と七九九三シルバー。
そしてミスティックの印章二つ。
かなり悪くない成果なんじゃないかなこれは。
「お前達もお疲れ様。私が殺られそうになった時、吠えてくれたでしょ」
活躍はしてくれなかったけれど、ちゃんと私を案じてくれる存在であるらしい犬達を労ってみた。特に反応はしなかったけど。
孤独な任務ばかりの毎日に、心許せる友人達が出来たのかも知れない。
私は。
あいつの仇を打てたことになるんだろうか。
頑張って火縄銃を丸々二本消費するくらい撃ち続けたけど、これは飽く迄もみんなの勝利。
仲間の遺体を運んだり、勝利を祝い合ったりしていた逞しい冒険者達の塊が、三々五々散っていった。また新しい探求へと旅立っていくのだ。
でも私は、まだその場を動けずにいた。
あいつ。
あんなに強そうなあいつが、どうして死んでしまったのだろう。
その時のピークとの戦闘では、いったいどんな流れだったんだろう。
どんな風に死んだんだろう。
あいつが居なくなってしまったことを受け入れきれない。
どうして。
どうして突然。
……私はあいつのことが、好き、だったのかな。
いいや。
まだ大人じゃない私にとって、あいつは恋愛どうこうの対象じゃなかった。
ただ、任務で忙しく飛び回っている時にふと思い出すのは、あいつの言葉ばかりだった。
思ってることを言えない。素直になれない。そんな私が言いたいことを代わりに言ってくれる人だった。
会社のボスはキツい人だから、私にとってはあいつが保護者みたいな、お父さんみたいな存在だったのかも知れない。
「ねぇ、私あんたの仇……打てたよね?」
虚空に向かって小さく呟く。
「もちろんだ。ありがとうよ嬢ちゃん」
えッ……!?
振り返ってもそこには誰も居なかった。
白い獣が消えて青く晴れ渡った空だけが、ただただ何処までも広がっていた。
「…………」
気のせい、だよね。
でも、なんだかちゃんと仇討ち出来た気持ちになれたよ。
ハイデルの借家に戻った私は、あいつの勲等賞の角の横に今日のドロップ品の角を並べておいた。
これで、供養じみたことにはなるかなぁ。ホントに葬儀はどうする気なんだろうボス。早く日取り決めて欲しいな。
「あ、そうだ。もう一人の獣のこと忘れてた」
私は獣マンジゴリラのためにメディアへ向かっていたんだった。
馬車を置きっぱなしにしてしまった場所へ取って返して、さっさとこんな面倒ごと済ませちゃわなきゃ。
もう一番星が光っている。カーマスリブ寺院まで行ってゴリに頼まれたヒノキの樹液を採取する予定だけど、着くころには夜になっちゃうかな。
それにしても、妙にはっきりと聴こえたさっきのあいつの声は……。
ううん。
幻でもいい。
最後に私の前に現れてくれて、ありがとう。
こっちは前に進んでいくよ。
そっちはゆっくり休んでね。
さようなら。
つづく
また突然Web小説書きたい病に罹ってしまい……。
予定していたつづきは後回しになりました(つд⊂)
[サントのメリークリスマス]
[サントのメリークリスマスのつづき]☜今ここ
[サントのメリークリスマスのつづきのつづきの前置き]
[サントのメリークリスマスのつづきのつづき前編]
[サントのメリークリスマスのつづきのつづき後編]
おい、俺の死をもっと思い出してくれ……。
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