2018年2月9日金曜日

珊瑚の欠片なの番外編 佐々木先生(3巻)




[珊瑚の欠片ひい 0/100個]
[珊瑚の欠片ふう 7/100個]
[珊瑚の欠片みい 13/100個]
[珊瑚の欠片YO 13/100個]
[珊瑚の欠片いつ 27/100個]
[珊瑚の欠片むう 62/100個]
[珊瑚の欠片なの① 62/100個]
[珊瑚の欠片なの② 62/100個]
[珊瑚の欠片なの番外編 佐々木先生(1巻)]
[珊瑚の欠片なの番外編 佐々木先生(2巻)]


(`Д´)ワージッ! パーパパパパパッパパパパ


地獄にやってきて見上げたその真円は、完全にアレのを思わせるものだった。
時空が歪んでいるのだろうか……。


Sign by Susumu Hirasawa


天蓋に吸い寄せてられてしまう視線を引き剥がし、辺りを見回してみると、


そこは牧場の様な場所だった。
ニワトリやキノコ牛、そして時折湧出するゾンビピッグマン達までもを柵の中に閉じ込めた、巨大な円形の牧場だ。
地獄に存在しないはずの水や氷は、コマンドブロックで出したのだろうか。


……モンスターとはいえ人型のMOBが、家畜と一緒に囲われている光景。
カワイターノちゃんが意図したものかどうかは不明だが、
人も家畜と変わらないのだ!
という、よくある生々しいメッセージを感じてしまう。


外に出てみるとそれは巨大なドームであると解った。別に歪な時空に放り込まれたわけではなかったのだ。
空の色も通常のネザー地獄としてのものであり、妙なことだが逆に安心する。

ドームの隣には赤煉瓦造りの建物があった。入口の見当たらないその高床式の箱物は、覗き込んでも中が煩雑としていて作られた目的が解らない。


膨大な数の黒曜石ブロックとグロウストーンで出来ているドーム。積み上げるのにいったいどれほどの時間を要したのだろう。

その反対側には四角く区切られた公園がある。


犬犬犬……。犬の公園だ。ここもゾンビピッグマンのお散歩エリアである様だ。


待て。あの巨大なビルは何だ?


入口無しの箱物と接続されている。な、何だ? 何なのだデカ過ぎる。

ボキュはこの巨大なビルの全体像を1ショットで眺めるために、かなり離れなければならなかった。
最下の座標y=0から最高度y=256まで使った、このマイクラ世界における最長クラスの構造物だ。


何なんだこれは一体……。ホントに何なのだこれは。
カワイターノちゃん、き、キミは頭がオカシーのか?

中層にある円形の展望台から内部に入れた。


幾つかのオブジェクトの他には何も無いガランとした空間が広がっている。
床は半ブロック。モンスターがポップ出来ない造りだ。


ビルの中身は何かの仕掛けがギッシリと詰まっていた。キミは変態なのかカワイターノちゃん……。
ズラリと並べられた感圧版。これを踏み回路が作動すると、すぐさまその感圧版の上の存在を叩き落とす装置。それが幾重にも、阿呆ほど積み上げられている。

数えてみた。

感圧版の数は40×2双が51階層。中層y128あたりの高度でぼーっと放置しておけば、この総数4080個の仕組みが全て有効になるのだろう。

これはモンスターのトラップタワーだな。


呆然と眺めていたら、黒い影が湧出した瞬間にやはり落されていった。至る所に設けられた梯子に引っ掛かりながら緩やかに降下していく影を見守っていると、


最後の数十メートルで何の支えも失った黒い影は、為す術もなく猛烈な速度で落下していった。
そして最下層の床にぶち当たり、フギャッという小さな不満を漏らしている。

次々と落ちてくる黒い影の正体はエンダーマンだった。


叩いてみると素手のパンチ1発でエンダーマンが呆気なく死んだ。このマイクラ世界で最強クラスに属するMOBである、あのエンダーマンがだ。
HPが1になるよう落下高度が調節されているのだろう。


本来1発でも殴られれば別の座標へとランダムワープし、プレイヤーを翻弄してくるのがエンダーマンだ。しかしこのトラップタワーに閉じ込められたが最後、そのワープ能力は何の役にも立たない。1発目のパンチでくたばらざるを得ないからだ。


これは瀕死にしたエンダーマンたちを……経験値稼ぎ用のただのアイテムとして貯蓄しておくためのトラップタワーか。


プレイヤーの経験値になる為だけに生まれ、飼育され、食べられる。
エンダーマンたちの……小さな牧場だ。

おぞましい! とは言わない。ボキュもこれと同じ残酷な構造物を何度も造った。


だが、これほどの規模の物を作った試しは無い。
そういった意味では、彼女の果てしない根気が……おぞましいかも知れない。

待てよ?

そういえば何故、こうも都合よくエンダーマンだけを湧出させられるのだろう。
他のモンスターが混じらない様にする構造など存在するだろうか。

理由は外に出てみてすぐに解った。ここはジ・エンドだ。


カワイターノちゃんは地獄にジ・エンドを接続してしまったのだ。
それなら確かに、この区画にはジ・エンドのエンダーマンだけが湧出するだろう。


落ちればクリエイティブモードであろうと死んでしまう虚空に浮かぶのは、ジ・エンドの浮き島。


近寄ってみると配管工の兄弟が、い、いやそれよりも。どうして夕陽が見えるんだ。こっち側の世界に陽の光など届かないはず。
……データが滅茶苦茶だからだろうか。


エンダーマンビルから続く細い橋は、浮き島の下部に繋がっている。

浮き島にはジ・エンドの覇者たる竜の姿など既に無く、ここも開発が進んでいた。
黒曜石の壁と岩盤の尖塔屋根の建物。
舗装された道。
石煉瓦の橋。
ドラゴンの命綱である宝玉を頂く柱は、ただの観賞用オブジェクトとして残されている。


このジ・エンド世界の住民であるエンダーマンは、ポップするそばからアイアンゴーレムの群れに片付けられていた。
それをのほほんと村人たちが眺めている。

或る意味での地獄を感じさせる光景がそこにはあった。


道は橋の向こうでまたネザー区画へ戻る。
エンダーマン数体がこの橋を渡って鉄ゴーレムから逃れていった。
ジ・エンドの先住民たる彼らは、人間の手によって迫害され、たった一つだけ残された島からも追い出されつつあるのだ。

カワイターノちゃんは

この世界をこう飾ることで、何を表現したかったのだろう。
アメリカに於けるインディアンと白人の歴史?
それともアイヌかな。
アボリジニかも知れない。


よく解らない。想像の域を出ない。
ただおそらく彼女は、社会への鬱屈した不満を抱えているのだ。

いいや、そんな真っ当なものじゃないかも。
ただただ変態なのかも。
可愛いお顔とは裏腹に、心の裡は醜い変態感情で溢れかえっていたのかも。

あの巨大なエンダーマントラップが、その何よりの証かも……。

変態以外に造れるシロモノじゃないだろう。


そう。彼女は変態だったのだ。ボキュなんかが及びもつかないほどの。

……戻ろう。彼女の地獄には、モンスターよりも邪悪な何かで満ちている。



嫌なものを見てきてしまった。


危ないから塞いでおいた。この地獄へのガバガバサイズな出入り口から、ファッキンなものが漏れ出てきたら大変だからな。


まさか何となく行ってみた地獄で、このサトウキビタワー以上の巨大からくりに出遭うなんて……。
なんだか敗北感でいっぱいだ。今回の地獄への訪問は、ボキュにとって本当の意味での地獄になってしまったかも知れない。


忘れよう。忘れて早くこの回路を並べなければ。

カワイターノちゃんの汚いところは見なかったことにして、彼女の綺麗なお顔が喜ぶシーンだけを想像するんだ。



つづく



[珊瑚の欠片なの番外編 佐々木先生(4巻)]


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