2018年3月14日水曜日

珊瑚の欠片なの③ 62/100個



[珊瑚の欠片 目次ページ]



「フム。これはいいな、とても」
作ったすまし顔でそう言ってのけたライトニーだが、真の興奮というものは簡単に隠し立て出来ないのだ。その証拠に彼女の目は輝きまくっている。
「でっしょう? ちょっとソコイィ~ラの女子のとは違うよね。手に伝わってくるココティヨ~サ? それが段違いというか」
私もしきりに感動してしまう。これまでにもう何度も愉しんでいる感触なのに、やっぱり何度でも感動してしまう。


「ふ、ふたりとも、あの、ちょっ……も、もう気が済んだよね? あ……あ……そ、そろそろ離して、ほしいん……」


お泊り会でそれぞれの下着の論評会にも飽いた女子校生3人。つまり私たちが、その下着姿のままお互いの乳房の具合どんなですかと確かめ合いごっこを始めるのに、そう時間は掛からなかった。

「私の気はまだ済んでいないが。カワイターノはどうだ?」
「うむーん、そうですなぁ……。もう少しじっくり揉み込んでみないことには、なんとも言えませんなぁ」
「あ、ちょっ、と。もう本当に、あ……や、やめて……あ……」

一番巨大なブツの所有者である美絵。彼女に標的が集中し始めてから、もうかなりの時間が経過している。
少々やり過ぎている感が漂ってきたが、何しろこっち側は二人だから勢いついちゃうんだよなぁ~。
タゼイにブゼイとかいうやつだ? 違うかも。

このおふざけの止め時がよく分からなくなってから、どれくらい経ったろう。


時刻はまだ夜九時を回ったばかりで、このまま本当に止め時を見出せなければ、イジられまくった美絵はおかしくなってしまうんじゃないだろうか。
しかし指に伝わる見事なココティヨ~サがあっぱれエクセレント過ぎて、そう易々と離してなるものかと私の手が言うことを聞かない。

ライトニーのおっぱいも、実は美絵と同じサイズあったりするんだけど、彼女の場合はおっぱいより高身長オンナであることのほうが目を引く存在だったりするから。
上背のせいで全体のバランス的に、“まぁ、このくらいはあるだろう”と思われる悲しいおっぱいサイズの持ち主だ。おっぱいだけじゃなく全部大きいっていう話。

君がいるから by 菅原紗由理 (THE SxPLAY)


THE SxPLAY の切ない歌声が静かに流れているライトニーのお部屋には、高そうな家具が至る所へ配置されている。中学生の頃からダークナイト職である彼女が、自分で稼いで自分で買った物だ。
初めて此処へ来た時は何か壊してしまったら大変だと緊張したものだけど、何度もお邪魔してる内にもう慣れた。

ライトニーと私のおふざけ攻撃はまだ続いている。被害者である美絵は、どうしたことか少し前からささやかな抵抗すらしなくなっていた。
ありゃ、そろそろ本当にやめた方がいいかな?
頭ではそう思っても手が、手がやめてくれないんだ手がぁぁ。

なんて思ってたら、それが起こった。

「おや、どうしたんだ美絵? 何やら先端が尖ってきた様だが」
右の乳房をいじっていたライトニーが普段より五割り増しの意地悪顔でそんなことを言うので、


「おお本当だ。どうして此処はこんなにコリコリしてるんだぁ~い? 寒いの?」
私もいじっていた左の乳房の先端を触ってみると本当にそうなってたから、今考えてた心配は何処へやら尚いっそうおふざけに拍車がかかっていく。

そこから二十秒後だ

「あ……あっ、ちょっ、あ……お願いっ……本当にもう……あ、あああああッ!」

わ! え、何? 大きめの声を出してから、がくりがくりと大きく二回震えた美絵がパサリと仰向けに倒れた。受け身も取らずにだ。
「え、ど……どうしたの美絵ッ!?」
突然の出来事に私は悪ノリ気分もゼロまで忘れて慌てた。柔らかいベッドの上じゃなかったら危ないシーンだったのでは。後頭部ぶつけてただろう。


「お、落ち着きなよカワイターノ。その……た、達しちゃっただけだろ」
ライトニーはいつもの調子で落ち着いている。うんにゃ、少しだけ声が上擦ってるかも知れない。
「……んぇ? 何に?」
美絵が何に達したと言うのだろう。
「え……」
私に向けた顔を戸惑いの表情で満たしながら、何やらライトニーが絶句している。なんスか? どうしたんスか?

パオ~ン。ドシンドシン。ドシンドシン。

表の通りを象が通り過ぎて行った。
「カワイターノ……お前、まさか」
「ライトニー。今は私のことより美絵だよ。この子どうしちゃったんだろう」


「あ、あぁそうだな。いやしかし……胸だけで、その、逝けるものだろうか」
「何? え、美絵何処に行っちゃったの?」
「いや、は? お前―」
ライトニーがまた呆気に取られた顔で固まった。これはこれで珍しい表情で面白いんだけど、一体さっきから何だというんだろう。煮え切らない態度というのも彼女にしては珍しいし。

「美絵は何処に達してから何処に行ったの?」
もっかい聞いてみた。
「……………………忘れてくれ」
「えー! 知ってるんなら教えてよライトニー」
「いいんだ。忘れてくれ」
そりゃないよライトニー!
「もうう。どうしてライトニーはファルシとかバルスとか私に分からない用語ばかり使うのー?」


「バルス? ああ、え? ああ、すまない……」
おっと、困らせてしまった。ちょっとしつこかったかな。

むーん、でも此処に居るはずの美絵が何処へ行ったというのだろう。ライトニーが心配してる風じゃないから美絵は大丈夫なんだと思うけど……っていうかライトニーは私の方を心配してるみたいな顔だ。
何なんだこの状況。さっぱりワケが分からない。


「なあ、カワイターノ。とぼけてる、んじゃなく、本当に知らないのか?」
ぬ? 矛を収めてあげたのにライトニーが自らまたぶっこんできた。何の話なのか皆目見当がつかないけど忘れて欲しかったのではないのか?
「もうう。だぁーかぁーらぁー、何のこと?」
「いやほら……だから。うーんと……逝くこと、というか……あのほら……お、オナニーのこと、だ」
やっぱり行く話のことじゃないか。

え、今なんて言った? 彼女は今……オナ、ニー?
「あ、オナニー」
その言葉……! 体に電撃が走る様に思い出す。


オナニー、マスターベーション、自慰。

言葉だけは知っていた。女子たちの会話の端々に時折上るのだ。でも、その意味を質問するとみんなから“おこちゃまのカワイターノにもその内分かるよウフ”みたいな感じでいつも誤魔化されてきた。

だから何となくエロい単語なのだろうという当たりは付けていたものの、それ以上に興味を持つのは嫌だった。
私の中にはまだ、佐々木先生に植え付けられたアナル乳房トラウマが心持ち残っているのだ。


そこから私は、ライトニーに自慰なるものの意味とそのやり方あれそれを教えてもらった。もちろん言葉でだ。
「そ、そんな恥ずかしい言葉だったの!?」
びっくり仰天である。
自分の股間を……指で……えええ、そんな卑猥な……ええええ。


最初照れながら教えてくれていたライトニーだが、私のあまりの無恥っぷりに後半は真顔で呆れ返っていた。

ふと、気になってたことを問い質してみたい衝動に駆られる。
「ちょっとさ、今まで聞いて無いネタ聞きたいんだけどいーい?」
「何だ?」
「……私の印象だと、ライトニーって経験豊富って感じなんだけど」
「う」


おっと。ライトニーの顔色が気まずそうな風合いに変っていく。やっぱこのテーマ、今まで聞くの避けてきて正解だったみたい。
「ライトニーって今まで、何人くらいと付き合ってきたの?」
「……んぅ」
答えあぐねる彼女を見て、私は台詞を途中で引っ込めれば良かったとフォンノォ~リ後悔した。もう高校生なんだから、興味本位のままに口を動かすのはいい加減にやめなきゃ。失敗、失敗。
なんて思ってたのに答えてくれた。

「私も……その、んぅと、付き合ったことは無い」

はへ? 彼女は、ライトニーは今なんて言ったんだ?
「えっ? えー嘘だ。ホント?」
「ああ、私には交際経験が無い」
「……………………ライトニーって処女なの?」
「しょ……ああ、そうだ」


「うっそだー」
「本当だ。お前だってそうだろう。何を不思議がるんだ」
何を不思議がるって、おいおい! 私は凄まじい情報を知ってしもーたのではなかろうか。この人処女だったの?

ここから聞いてもいないのに怒涛の言い訳が始まっていく。


「私は忙しかったんだ。駄目な妹夫婦を養わなきゃいけない。まだ中学生の身空からそんな責任を負ってたんだぞ。男子と付き合ってる暇なんて無かったさ」
「ああ、そういや……そうだねぇ。そうかぁ~」
ホント大変そうだなぁ~ライトニーの人生は。彼女も美絵や私と同じように、中学生の頃から忙しい業を背負ってるんだ。Ah, well......私の忙しさは殆どマイクラ漬けが原因なんだけど

家の手伝いと、自分で生きるってのは、どっちが大変なんだろう。
たぶん自分で生きるほうかな。誰にも頼れないんだろうし。
しかも自分だけじゃなく妹ちゃんとその夫まで養って

「……え。あの妹ちゃん夫婦って駄目な人たちなの?」
ライトニーの妹夫婦には数回この家で会っている。まだあんまり話してないけど、そんな駄目人間には見えなかったんだが。

「ああ、そうだな。妹は働いたら負けだとか言ってて、義弟のアイツも夢追い筋肉馬鹿なんだ」
ライトニーが更に続ける。


「何の資格も持たず、現実的な目標意識も無いままにカルフェオンまで出てきてしまった、無計画な愚か者たちだよ」


「案の定、私を頼ってきやがったんだ」


「しかし、妹とその夫だからな。放り出すワケにも……。いいや、放り出さないから駄目なんだろうな。きっとこの優しさはアイツらの為になってない」


「分かってる。分かってはいるんだ。ただ私は、アイツらが押しかけてきた時、正直頼られたのが嬉しかった。姉としてな。それに、独り暮しの寂しさが紛れたのも事実なんだ。だから……」

「待って待って。その話って長くなる?」


ライトニーの独り言を押しとどめてみた。
「お、お前な……」
彼女が不平を漏らすが知ったことではない。いつまで続くのだその自叙伝は。
「その話はしんみり会の時に回すとして、ちょっと言いたいこと言っていーい?」
「何だ?」
「ライトニー……今まで散々私をお子様とか言ってくれたけど、あんただって耳年増仲間だったんじゃないかー!」
「う、すまん。いや待て。お前は耳年増ですら無かっただろう!」

説明しよう。“耳年増(みみどしま)”とは、卑猥な知識を聞いて知ってるだけで実体験皆無な若い女性のことである。

「…………ぬぅ~確かに。私はオナニーの意味すら知らなかった」
「私は交際経験こそ無いものの、お前と違ってオナニーしたことなら有るんだ!」
「そんな恥ずかしい勝利宣言初めて聞くよ! ていうかそのエロ単語を真顔で言わないで!」





「ヤフー知恵袋ってちゃんと答えられてるやつは結構役に立つけどさ、アンサーが“おそらく”だとかさー、“だと思います”だとかさー、答えになってないの多ぉ~いよねぇ~。そんでさそんでさ、あろうことか“わかりません……”がベストアンサーになってたりするのあるじゃない? なんじゃそりゃ~って感じ。こういうの一掃しろよって思うんだけどなぁー私。ライトニーはどぉー思うぅー?」

「お、おい。美絵の心配はもういいのか?」

美絵が気を失ったのはエロいことになったからだと分かって、私は心配する気がすっかり無くなってしまった。まあ、それをやったのは私たちなんだけど。
ぼーっと端末をイジりながらライトニーに返事する。
「だって別に危ない状態じゃないんだし、心配しても仕方がないよね」
「まぁ……それはそうなんだが」


「そういやライトニー聞いた? あの佐々木先生が、飛ばされ先のトレント工業高校で早速不祥事起こして、また僻地の学校に飛ばされたらしーよ」
「こないだ言ってた中学の時の教師か? 聞けば聞くほど頭がオカシー人だと思えてくるんだが」
「そーなんだよう。頭オカシーんだよう。無表情なのに目だけギラついてたし」
「ほう、気色悪いな」
「なんか頭の中で常にいやらしいこと考えてそうだったし。絶対その内女生徒に手ぇ出すよ。誰だあんなのに教員免許やったのは」
「フッ、そのうち討伐対象になりそうな人物だな……」
「あはは。かもねぇ。そうなったらライトニーが始末してきて!」
「遠慮したいな。剣が穢れそうだ」
「ブフッ……確かに!」


他愛もない話をしてしてる内、彼女に抱いてたイメージが少し変わってきた。
自分で働いて自分で学費払って自分で生活しつつ妹夫婦まで養ってる完璧大人ライトニー! ……なんて思ってたのに、普通の女子みたいに下らない話で興がれたりもする。しかもおこちゃま仲間だったし。

私と同じだ。親近感ちょい増量。





美絵が目覚めたのは、象が更に三回、馬車が十八回窓の下を過ぎ去り、そしてシアン商団からまた逃げたのであろう子羊が二回メーと鳴いた頃であった。
シンプルに言うなら零時半だ。
この子ってばたっぷり三時間以上気絶してたのか。いやもうそんなの気絶じゃなく熟睡だろう。


彼女はぱちくりしてから自分に何が起こったかを思い出したらしく赤面。その顔があちこちを彷徨って壁掛け時計に止まった途端、
「……そ、そろそろ寝ましょうか」
なんて言った時にはからかうのも忘れて笑った。あんた今起きたとこでしょうに。

そこからも三人でまとまりが無いお喋りを続けてたから、ようやく寝ましょうとなったのは二時過ぎ。
話し合いの結果全員ベッドを譲らなかったため、川の字に並んでぎゅーぎゅー詰めでの就寝となった。壁際からライトニー、私、美絵の順。セミダブルの面積広めなベッドだけど、やっぱ三人で横たわると流石に狭い。


意地の張り合いからの脱落を認めて、今からあっちのソファで一人広々と寝たほうが快適なのでは……。しかし背中に当たるふわふわの物体は、ライトニーのどの部位だろう。うーん、好ましい感触だ。やっぱりこのままベッドで寝ようカシラ?

「二人とも、まだ起きてる?」

背中への何かが気になって寝つけずにいると、美絵が天井を見上げながらそう小さく呟いた。
「ああ、起きてる」
私の後頭部に息を吹きかけつつ、ライトニーがそう応える。
「同じく起きてるよん。どったの?」
私も目の前にある美絵の側頭部を見つめながら聞き返した。

「……聞いて欲しいことがあるわ」

ほへぇ~聞いて欲しいこととは何ぞやぁ~? 睡魔のふわふわ感に包まれながらそのまま見つめていると、美絵は私たちをチラリと見て少しだけ逡巡する様な顔しおった。天井に視線を戻した彼女が続きを話し始める。


「二人が私と……もし同じなら、抜け駆けになってしまうのも嫌だし。それに事前の相談もなく人づてに聞かせてしまうのも嫌なのよ。だから言うわね」
え、何だろう。何を言う気だろう。勿体ぶるじゃないか。少しドキドキしてきた。
背後のライトニーが上体を起こした気配。
私たちが見守っていると、意を決した目になった美絵はついにそれを話した。

「私、メンノ君が好きなの。告白しようと思ってる」

なん……だと。え、何だと? 頭で考えるより先に私の口はお返事をスタートした。
「ほあ!? な、何故に。え、あ、やっぱりお金持ちだから? や、もしかして顔がいーから?」
あわわわわ。泡立て、じゃない慌ててわちゃわちゃとした台詞で応答してしまったじゃないか。
「……カワイターノ。普通は顔の良さから先に言うものだと思うのだが」
後ろからライトニーがそう返してくる。振り返るとこの何時間かで何度か見た呆れ顔がそこにあった。いやうん。確かに好いた惚れたは顔から入るもんだろうけど。


私はライトニーに倣って上体を起こし、美絵と彼女を交互に見ながら反駁した。
「そうかもだけどー。ねぇでもアレでしょ? やっぱ顔だけじゃなく玉の輿もセットであったほうがいーでしょう?」

美絵も体を起こしてきた。憂色を孕んだ表情で私の言葉を吟味し始める。


「玉の輿って、何故いきなり結婚まで飛躍してしまうのよ。私は別に、あ、でもどうかしら。うんそれはまぁ、玉の輿なら嬉しいかも、知れない? い、いいえ! 違う違うやめてよカワイターノ。そんな、お金なんて気にしないわよ。私はただメンノ君自身が好きなだけで
珍しく長い台詞だなオイィィ。

はえーお金なんてどうでもいいってあんた、そんなに好きなのか。顔だけならそりゃメンノ君はかっこいいけど、喧嘩弱いのに好きなの?
理由は解らないけど、どうしてか止めたくなって色々聞き返えそうとしたその時、隣のライトニーがとびきりの爆弾を落としてきた。


「だが美絵、これは知ってるか? メンノは最近、ニカ船舶の後継者ではなくなったんだ」


「…………」
「…………」

は?

「えええ? なんで?」
驚きの情報に思わずアホ面の私。
私も詳しい事情は知らないが、確かだ」
あ、ありゃまぁ……けどライトニーが言い切るくらいなら、本当にそうなのだろう。
おーそうか。それでメンノ君は高校から急に羽振りが悪くなったのね。
なるほど納得。
いやだけど人生観変わったとかじゃなくて、そんな単純な理由だったなんて。

「それなら玉の輿……じゃないのね」


玉の輿になれないと知った美絵が、非常に分かり易い失望のオーラを発した。
Oh...い、意外だ。聖人みたいなこの子にも現金なトコロあるんだ。

でも思い起こしてみれば……こないだの学校祭のクラス演劇で、大貴族アナベラ・ベルッチ役に選ばれて凄く喜んでたもんなぁ。貴族の服だーって無邪気に燥いでて、美絵らしくないなーって思ってたけど。


そうかぁ、こやつはお金が好きな子だったんだ。はへぇ……。実はめちゃくちゃ玉の輿願望とかあったのね。
何やっても優等生で人間離れした感のある美絵が、私と同じ、欲に塗れた子羊だとようやく思えた瞬間かも知れん。メンノ君のお陰で親友の新たな一面発見だよ。

けど、そのメンノ君はもうお金持ちの跡取り息子ではないわけで。
「玉の輿じゃないのに、それなのに告白してしまうん?」

美絵が一瞬答えあぐねたから吹きそうになった。
すかさずライトニーが鋭利な言葉を添える。
「まぁ、告白がうまくいくとは限らないわけだし? 今からその先をあれこれ心配してもな」


「えっ、ええぇぇ……ヒドいライトニー。美絵は真剣なんだよう? けど確かにそうかも。うまくいってから考えるべきことだもんねぇ。あ、こういうのことわざで何て言うんだっけ? えーと。狸の皮を……剥がずんば、虎児を得ず?」
「捕らぬ狸の皮算用ね」
私の突っ込み役はいつも美絵の役目だ。
前はネタ振りも彼女の仕事だったけど、そっちの席には最近ライトニーが座りつつある。



一番最初に寝付いたのは美絵だった。あんなに仮眠取ったのにだ。
寝る子は育つってやつだろうか。
ハッ……もしかしてよく寝るのが巨乳を育てるコツなのぉー?

しかし美絵のこのおっぱいが……とうとう男子のものになるかも知れないのか。
何だか……何だかぁー、モヤモヤするぅー!


今度こそ寝ましょうとなる前、美絵はメンノ君にどうやってのめり込んでいったのか語ってくれた。

曰く、何がきっかけで好きになったのは分からないから、やっぱり顔の良さから気になっていったのかも知れないこと。
曰く、私たちに相談しようとしてたけど、もしライバルだったらと疑心暗鬼になり過ぎて、これまで何も言えずにいたこと。
曰く、それでも自分の気持ちの抑えが利かなくなってきたから、ついに打ち明けざるを得なくなったこと。


私たち相手に疑心暗鬼になっちゃうとか、何も見えなくなり過ぎでしょうよ。
こちとら親友ぞ?
けどそこまで重症化するほど、メンノ君が好きで好きでたまらんってことデスカ。

片想いの期間は四ヶ月ほどになるらしい。それほぼ入学当初からじゃん。
いやはや、親友なのに全然気づかなかったよ。

……胸のせいか影で男子たちの人気者だったり美絵が、自分から男子を好きになる日がまさか来ようとは。
こんな事態初めてだから、さっきは取り乱してしまった。慌ててしまった。眠気もすっかり吹き飛んでしまったじゃないか。
吹き飛ばした犯人である美絵は、またぐっすり寝ている。どんだけ寝るの。


天才のこの子に何もかもを先行されてしまうのって慣れてるけど、こういうことまで置き去りにされてしまうのか私は。

うう、これだけは言える。幸せそうな顔してる人間には、なんかもうお手上げだってこと。
メンノ君について喋ってる美絵は本当に楽しげで、ライトニーも私も途中からからかう気が失せてしまった。
ただただ、羨むばかりしか出来なかった。




つづく


[珊瑚の欠片なの④ 62/100個] ※R18

次回は18禁なので子供ちゃんはここでさようならぁ~(´;ω;`)ノシ
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