2018年9月7日金曜日

地震




9月5日深夜。私はクノイっちゃんで薪割り放置しながら、もう一つの画面でWeb小説を読んでいた。
それは『オーバーロード』というファンタジーもので、アニメ化もされ現在3期が放送中の人気作品。
主人公のアインズ・ウール・ゴウンが王国の兵士10万人以上を一つの魔法で虐殺するという大スペクタクルシーンを私はとても興奮気味に読み進めていた。

ガタガタガタガタガタ……ッ!

それは3時過ぎのこと、横揺れの地震。
最初は小規模なものだろうと私は構わず小説の文字を目で追っていた。
「揺れる文字が鬱陶しい」
程度にしか思っていなかった。
でもその地震は収まる気配が無い。それどころか段々強くなっているような……。

ドウンッ! ドウンッ! ドウンッ!

縦揺れ!
「あっ、ちょっ、やば、これやばっ」
それも思わず声が出るほど大きなやつ。ふわりと持ち上げられて叩きつけられる様な縦揺れが3、4回以上続いた。
2回目のドウンッ!で部屋が真っ暗になった。
ガタンと何か大きな物が落ちた音。
ケータイが地震警報を受信したらしい音。


防災意識などまるでない私の部屋に懐中電灯など無く、どうしたらいいかと真っ暗な中で呆然。
これは停電? それともうちだけブレーカー落ちた?
鍵のキーホルダーに小さなペンライトを付けていたのを思い出し、あちこちぶつけながら玄関へ取りに行く。
そこにあるブレーカーを照らすとONの状態。
少し外に出てみるとどこもかしこも真っ暗。街灯も信号もいつも夜更かししてる隣人の窓も真っ暗。
どうやらこの近隣一帯が停電になったらしい。
部屋に戻る。
頼りないライトの小さな光で見渡すと、散乱した室内がそこにあった。
その光景にショックを受ける前に、地震前から散乱した室内だったじゃないかと思い出す。私は掃除嫌いなのだ。
変ったところといえばオーブンが落ちているくらい。先ほどの大きな物が落ちた音の正体だろう。

特に被害無し。

私はそう断定してケータイでオーバーロードの続きを読み始めた。
そして充電が無くなり、ケータイを充電器に刺した私は自分の馬鹿さ加減に気づいた。
停電だっつーの!
いきなり外部との連絡手段も情報も失った私は呆然として少し笑いました。

陽が昇るまで少し眠った。
私は冷蔵庫にも通電してないことに気づき、卵や牛乳など腐りやすい物を胃に入れてしまおうと考えた。
ガスや水は問題なく出る。
停電はまだ続いているけど、オール電化とは程遠い環境なのでコンロも使えた。
目玉焼きを乗せたパンとカフェオレをかき込んで、私はお外に出てみた。

いつもとさほど変わらない日常が住宅街にあった。
ただ主要な交差点以外の信号機は消えてる。
コンビニは休み。
デパートもスーパーもやってない。
ど、道路が凹んでいる……。
区役所で水を求める市民たちが大行列を作っている……!
断水があったご家庭もあるらしい。

情報を失っているが故に私にはどのくらいの規模の被害が広がっているかさっぱり分からない。
でも思ってるよりオオゴトなのかも知れないと感じた。

通電は一向に再開される気配が無く、私はその6日の夜を真っ暗な部屋で迎えた。
もしかして私は今、『被災者』とかそーゆー状態なんだろうか?
まだカボチャがある。日持ちするカボチャがある。
でもカボチャ食べたあとは?
食料は何処で手に入れたらいーんだろう。
避難所とか設置されてたりするのかな? 何処か知らないけど。

不安に駆られて部屋を出る。
そこには真っ暗な夜の街があった。
街灯ついてない。
どこのお家も真っ暗。
暗闇の道路。
24時間やってるはずのスーパーはまだやってない。『停電のため閉店中』と書かれた貼り紙。

暗闇の中でしょんぼり帰宅。
まぁ断水されちゃってる人よりマシだ。
私はお風呂に入ることにした。お湯が出ない。
なんと、ガスは通っていても通電が無ければ湯沸かし器が作動してくれないらしい。
涙目で水シャワーを浴びた。

夜が更けていく。
一時間に3、4台の救急車やパトカーが通る音。信号があまりついてないから事故が多発してたりするのかな。
「うぉいっ! うぉいっ!」
外の道で叫んでいるのは野犬だろうか? 野盗だろうか?
早くも治安が乱れ始めた?
今ってきっと札幌市内の警察官が総出で交通整理してるんだよね。
犯罪なんて取り締まってる暇が無い状況だったりして……。
も、もしかしてこのままモヒカン達が支配するヒャッハー世界になっちゃう?

こ、怖い。

不安の中で目覚める翌9月7日。今日はヒジの病院に行く予定がある。
私のヒジはもう殆ど治っているのだが、女医さんとリハビリのお姉さんに会うべく『まだ凄く痛い』ことになっている。
病院に着いた。
凄ぇ混んでいる。
何時間待たされるか分からないので、私はげんなりして帰ることにした。
帰り道の交差点で『登山すんの?』みたいな重装備・デカいリュックを背負った男性が居た。
彼はラジオを持っていて、今回の地震のニュースが流れていた。
耳を澄ますと『北海道全域で停電』とか『死傷者十何名』とか『停電の回復メド立たず』とか『札幌市清田区で液状化』などの不穏なキーワードが聴こえてきた。
……北海道全域って何だ?
清田区って此処じゃん。液状化? あの道路凹んでたとこ? 凄ぇ近所じゃん。
私はそんなオオゴトになっていることを初めて知った。

友達が心配だ。
いいや、友達は居なかった。
親戚が心配だ。
いいや、殆ど疎遠だから親戚も居ないのと一緒だ。
親とも疎遠だが大丈夫なんだろうか。
親戚の中でも唯一繋がりがあるのは伯母。
様子を見に行ってみよう。
伯母はおしゃべり好きな人で一度捕まると数時間解放してくれないから、普段はあまり関わりたくないのだが、そーも言ってられない状況なのかも。

伯母の家に到着。
インターホンを押すが通電してないため無音。
裏に回って、窓を叩いてみる。なんかドロボーの気分だ。
伯母は留守だった。
車が無いっぽい。
車が無いってのは出掛けてるということで、出掛けてるということは無事だということ。
私は帰ることにした。

一応伯母と連絡が取りたいと思ったが、何処にも公衆電話が無い。いつの間にこれほど公衆電話が無い時代になったのか。
ケータイの充電を阿呆なかたちで使い切った自らの愚行。ウケる。
もしかして伯母も私に電話したり部屋を訪ねてきてたりしたのではなかろうか。そして鳴らないインターホンを前にして帰ったのでは。
想像の域が出ないので自分のことだけ考えることにした。

陽が沈んだ。真っ暗な部屋の中で私は怯えた。
カボチャしかない。
どうしたらいいんだろう。食糧が無い。

怖い!

寝よう。寝てやり過ごそう怖いから。
これからどうなっていくんだろう。まさか本当に無法地帯になったりはしないだろうけど、ホント避難所とか何処なの?
ひ、ひとりぼっちだ。何も分からない。
友達居ない孤独者は、こういう震災とかあった時に淘汰されてしまうのか……などとこの世の真理に気づいた頃


電気ついた。


……は、はふぅ>< 助かった。

いやぁ今ネットでニュース観てますが、こんなオオゴトだったんですねぇ。
ぜんぜん気づけてませんでした。
土砂崩れとか家屋ぐっちゃぐちゃとかとんでもない世界になってる……。
状況が落ち着いたら懐中電灯とか防災グッズを買おう。



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